クマゲラと同等あるいはそれ以上に重要・貴重でありながら「有名でなかったり未記録のために黙殺されている種は数知れぬ。
地中の節足動物や微生物・菌類等まで考慮すれば、生命の種の豊かさは数字で計量できるようなものではない。
この「丸ごと残された大自然」が破壊されることによって、どれほど多様な種が絶滅するか、現在の人類の調査能力を超えて見当もつかぬであろう〔注4〕。
さらにブナの直接的役割として、スギやヒノキなどよりはるかに高い保水能力と土壊保全力がある。
白神山地国有林の秋田県側ブナ林は、戦後約30年の聞に半分ほどが伐られ、現在残るのは多くが青森県側である。
その結果、藤里・二ツ井など山麓の町村は次々と大洪水に襲われ、他方では自然の貯水能力を失ったため、常時の川の水量が減って農業用水にも支障をきたすようになった。
藤皇町文化財保護審議委員・K氏によれば、敗戦前後のころに比べると粕毛川などの水量は半分近くにも減ってしまったという。
藤里町会議員・K氏は、青森県境の冷水岳の秋田側山腹で、戦後しばらく短角牛(肉牛)の放牧をやっていた。
百数十頭を牧童2人で扱ったが、山肌はブナの大原生林でおおわれ、その抜群の保水能力のおかげで、下草には水草など飼料によい草が多かった。
冷水岳とは、この山の周辺の水が夏でも豊富で冷たいことに由来する。
1950年か51年(昭和25・26年)ごろの7月、一頭の短角牛が沢の中に沈んで死んでいるのを見つけた。
死後一週間ほど過ぎていた。
状況から判断すると何かでけがをした傷がもとで発熱し、暑さに耐えかねて冷たい沢の深いところへ自分で入水したらしい。
一週間たっていても、冷水が冷蔵庫の役目を果たしたおかげで、肉は少しも悪くなっていなかった。
T・Kさんが35、6歳のときである。
「あんなうまい牛肉それまで食べたことなかった」と加藤さんは言った。
その冷水岳の旧放牧地帯へ林道ぞいに車で見に行く。
かつてブナにおおわれていた放牧地帯の山腹は、いま皆伐で丸はだかにされ、そのあとにスギさえも見られないのは、略奪林業の見本か、植えても枯れたのか。
あちこちに崩落による地肌が出ている。
沢の水などは昔の3分の一もない、と加藤さん。
牛が体を沈めるほどの深さなど思いもよらぬ。
ここより下の方で、ブナのあとに植林して約20年になるスギ林を見たが、20年たってもまだ植えたばかりのような貧弱な姿であった。
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